「エターナる」「エタる」という単語はツクール界隈以外でも使ってるのかな

「エターナる」「エタる」という単語はツクール界隈以外でも使ってるのかな

「エターナる」あるいは「エタる」という単語を聞いたことはありますか?

ツクール界隈でよく聞かれる言葉で、作品が永遠に完成しない状態になることを指します。

Twitterでこれらの単語を使ってる方を見かけると「おおっツクラー出身かな?」とテンション上がったりします。Unityでゲームを作っている人だとあまり使っていないような印象でしたが、開発者にとってのあるあるが詰まっているとともに作品が完成しない悲哀が込められた言葉なので、自分で使わないにしても使っている人を見かけたら優しく接してあげてください。

 

 

「エターナる」あるいは「エタる」の語源

「エターナる」の大元は英語のエターナル(eternal)から来ています。Eternalは「永久の」「永遠の」という意味の言葉で、作品が永久に完成しないままの状態になることを指します。

  • Twitterでゲームの進捗を報告していたアカウントが止まった
  • ゲーム開発の進捗を報告していたブログが更新されなくなった
  • 体験版だけ作られて期待されていたもののその後音沙汰なし

などといったようにゲーム開発をしていることを発信していたものの、様々な要因でゲーム開発がストップしてそのまま時だけが過ぎていくさまを表しています。「エターなった」「エタった」といったように使われることもあります。

特にRPGツクールを使ってゲームを作る人々(ツクラー)の場合、フリーゲームとして公開することを目標に作成することが多いですが、趣味で開発している場合はどうしてもモチベーションが続かないことが多いため、作りかけのゲームの情報を発信してあるのにフェードアウト…といったことも日常茶飯事です。

モチベーション以外の要因でも、結婚して時間が取れなくなった、転職して忙しくなり時間が取れなくなった、などのプライベートの要因で制作が続けられないこともあります。

かく言う私もツクラー出身のゲーム開発者で、途中まで作って放り投げてあるRPGツクールのプロジェクトがいくつも昔のPCにあります。いつかUnityでリメイクして供養したいですね(言うだけならタダ)

人によってはTwitterやブログなどで「すまんもう作れなくなった…」といった形で制作中止宣言を行なってくれたりしますが、この宣言のことを「エター宣言」と言ったりもします。完成を楽しみにしていたゲームを長い間待ちつづけるのはユーザーの立場からすると辛いことなので、製作者がエタったことをちゃんと宣言してくれるのは、ある意味では誠実なことかもしれません。

 

多分これが一番語源だと思います

とまぁ表向きは永遠のエターナルが語源なのですが、いわゆる「エターナる」という言葉が流行した原因となるゲームがあります。

それは『エターナルファンタジア』。

ツクール製のゲームで、多くのスタッフを集めた超大作……になるはずだったゲームです。(資料によっては「エターナルファンタジー」とも)

今作ろうとしているゲームのシステムやストーリーのはじめの部分、そしてボイスを導入することなど、HPで情報公開していて、力を貸してくれるスタッフを20~30人ほど集めていたのでした。声優も募集していた話もあります。2000年頃の話なので、今からすると20年以上も前ですね。インターネット上で20年前というと現実世界に換算して1世紀以上前のような感覚です。

そんな『エターナルファンタジア』でしたが、この企画を打ち出していたのは当時16歳、17歳くらいの高校生で、プロジェクト全体を統括するのは難しく開発は頓挫、ゲームのタイトルのごとくエターナルな存在になったのでした。(統括が難しいというよりは本人の作業が進んでいなかった点が問題ゲフンゲフン)「エターナる」が使われ出した頃の書き込みを見るに、風呂敷を広げるだけ広げて収集つかず、結局完成に至らないまま投げ出されたこの作品が未完の象徴になっていたようですね。

のちに、単に未完の状態になることを指して「エターナった」「エタった」と動詞化されて使われ始めたようです。主にツクール界隈のスレで使用されていたものが、別の分野でも使われるようになったみたいですね。Twitterなどの存在により、特定のジャンルのスレッドでなくとも慣れ親しんでいる言葉を使うことがあるため、創作分野アカウントでのそうした触れ合いも広がっていった要因かと思います。

 

エターナルファンタジアについて

エターナルファンタジアは超大作を謳って企画が動き出しました。このゲームが制作されていた(であろう)時期はRPGツクールの制作人数を競い合うような文化が一部であったらしく、ゲームの構想の大風呂敷だったり、チーム内の制作人数だったりでマウントを取り合うようなチームもあったとか。

このエターナルファンタジアの企画を打ち出したチーム(名前は一応伏せておきます)もその一例で、インターネット上には当時のスタッフがこのチームに関わった時の怨嗟が今でもアーカイブとして残されています。スタッフと企画者(D氏)とで大揉めしてスタッフがどんどん抜け、残されたスタッフの作業負荷が上がって頑張るものの、肝心のツクールでの作業は全く進んでおらずゲーム自体の進捗がない、と炎上プロジェクトの見本のような経緯があり、エターナルファンタジアに対してあまり良い感情を持っていない人も多かったようです。

私がこの話を知ったのはやる夫スレで、ドット絵を作成するスタッフの立場からこのプロジェクトの経緯が語られていたのでした。今となってはやる夫スレ自体が古典文学めいた存在ですね。2000年代後半から2010年代前半にかけて、やる夫スレというAA(アスキーアート)を使ってキャラクターを表現し、そこに文章を加えて絵本のように物語を伝える表現がありました。村の長老が「かつてこの村にはな……」と話す感じになっていますが、AAについてもう少し遡ると「モナー」や「ギコ」、「ブーン」といったキャラクターがおり、これらのキャラクターを使って物語を作るというのは2000年初頭から行われていたようです。このうち「ブーン」というキャラクターを立体的に表現したものが「やる夫」と名付けられ、派生的にキャラクターも生み出されていったのでした。

エターナルファンタジアの経緯については例えば以下の記事でやる夫スレがまとまっています。(フォントの問題でズレるかもなのでテキストだけ追うと良いかもしれません)

 

久々に読んだけどドッターの立場だと泣くに泣けない状況ですね。制作統括しているはずの人間がボトルネックになるとプロジェクトが停滞するいい例です。趣味開発の場合は「趣味だから」という言い訳で開発の優先度が下がることもあるのは理解できます。ただ人を巻き込んでだと参加してくれた人の時間・技術・努力を無駄にしてしまうのでエターナルファンタジアの場合は悲劇が起こっていたのでした。

また、エターナルファンタジアがエターナった後に「エターナる」「エタった」が使われ始めた経緯については以下の2サイトが非常に参考になります。

 

エターナルファンタジアから学ぶゲームをエターナらせないコツ

ただ単に「エターナる」あるいは「エタる」の語源を紹介しただけでは悲しみを追体験するだけなので、ゲーム開発ブログらしくここから学びを得たいと思います。

『エターナルファンタジア』は未完となった作品の象徴の象徴ですが、ここからゲームを「エターナ」らせないコツを考えてみます。

考えるといってもやることはシンプルで、「風呂敷を広げ過ぎない」が大きな教訓となります。これは俗にいう企画倒れの状態を防ぎ、ゲーム自体を完成させるために重要な考え方です。

かつて私はRPGツクール3の攻略本を買ったことがあります。「RPGツクールの攻略本ってどういうこと?」と疑問に思うかもしれませんが、マジであったんです(笑) そこにはRPGを投げ出さないで完成させるコツが載っており、「まずはひとつの村、ひとつのダンジョンを作って、ボスを倒す部分まで作ってみよう」とありました。そこまでできて初めて続きを考えていこう、という流れになっていて、これは今でも私にとって重要な指針になっています。

どういうことかというと、RPGの企画段階だと、「こういう魔法を作りたい」「こういう敵を作りたい」といったようにどんどん風呂敷を広げてしまうことが多いんです。例えばメラ、メラミ、メラゾーマ、なんて感じに体系的に魔法を作って、この魔法を使う敵を作って……と後半部分まで想定したデータを作り始めてしまったりもします。実際にドラクエを遊んでいる時を思い出すと、メラが必要になるのは序盤、ある程度物語が進んでメラミが欲しくなり、ラスボスが視野に入った頃にはメラゾーマが欲しい、とそれぞれゲームの進行に応じて魔法を覚えていきます。ゲームの進行にはそれに付随するシナリオ部分やマップ作成の部分の作業も必要になるため、想定される作業量も当然増えていきます。

実際にやってみるとひとつの村を作るだけでもマップ作成、イベント作成といったように作業が多く、「作成したメラゾーマ相当の魔法を使うまでにどれだけの作業が必要なんだろう…」と未来の作業の多さがのしかかってきます。そうすると段々とツクールを開くのが億劫になって、日々の作業量が減っていき、ついにはエターナってしまうのです。

データ作成の作業量は全体に比べるとそう多くはないので、「このペースならマップ作成もシナリオ作成もスムーズに進むに違いない」と勘違いしてしまうんですよね。先に必要なデータを作ってしまっていることもプレッシャーになっていて、作成したデータを使うくらいまで作らなければならない、と完成ラインが引き上げられてしまいます。なので未完のまま投げ出されることが増えます。

そこで「まずはひとつの村、ひとつのダンジョンを作って、ボスを倒す部分まで作ってみよう」の方針が生きてきます。規模を限定することで、魔法の数は2つか3つで済みますし、敵キャラも3種+ボスくらいで済みます。マップは村、フィールド、ダンジョンの3つで、そこにイベントを入れてゲームに息を吹き込んで行くのですが、このサイクルを通すことで、どの部分にどれだけの時間がかかるのか体感でも情報を得ることができます。

そうすると、ゲームを広げていく際にどれだけの時間がかかるのかある程度見積もれるようになり、企画として考えたゲームと自分の作業ペースのすり合わせができ、これに伴ってどの程度の規模のゲームが作れるのか分かるようになります。

作成するゲームの規模はそのまま必要工数に反映されます。人が使える時間は限られているので、この限られたリソースをどのように分配するかが完成の鍵ですが、大作ゲームを夢見てしまうと自分が持っているリソースだけでは全然足りないんですよね。『エターナルファンタジア』ではチームメンバーを大勢募集することでこの部分を解消しようとしたものの(と好意的に解釈します)、肝心のツクールで組み上げる部分の担当が企画者のD氏のみだったので、集めた素材を組み上げてゲームの形にするにも手が足りない状況になってしまっていたのでした。

もし仮にこの部分を複数人で対処できていたのなら、あるいは作りたいゲームの規模感をうまく調整できていたら……もしかしたら「エターナる」なんて言葉は生まれていなかったかもしれませんね。

 

まとめ

たまにTwitterなどで「エターナる」あるいは「エタる」という言葉を見かけて、改めて自分でも歴史的経緯を追ってみたくなり気づけばこんな長文に……。

この言葉の語源となった『エターナルファンタジア』は完成していない作品にもかかわらず、その名前が20年後の今でも聞かれるというのはある意味ではすごいことなのかもしれません。

ツクール界隈以外でも聞かれる言葉ですが、この言葉を使う状況は開発者にとっては心苦しいものなので、できればエター宣言をした人にも優しく接してあげてください。

 

     

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